テーマは深い。人種問題と多様性(ネタバレあり)
この作品をはじめて映画館で見た時、わたしは驚きました。大きなテーマが「人種差別問題」なんですね(前宣伝でもDVDジャケットでもスルーされてますが)。ストーリーの舞台は1962年のアメリカ。当時は黒人差別をなくそうとする「公民権運動」が盛り上がっており、その時代背景がヒロインの女子高校生トレーシーの行動に大きく関係してきます。

まず最初のシーン。新聞配達の少年が投げた紙面の1面に「大学が黒人学生の入学を拒否」という見出しがあります。トレーシーが夢中になる地元テレビ局の歌番組『コーニー・コリンズ・ショー』の毎日のレギュラーは白人のみ。黒人が歌えるのは月に1度の「ブラック・デー」だけです。アフリカ系の歌手が大活躍する今(2020年代)から見るとビックリな話です。が、2019年の「BLM運動(黒人の命を大切にしようとする運動)」にしても、今でも人種差別はアメリカ社会に根強くのこる問題です。当時の運動でシンボル的な役割を果たしたひとりがキング牧師。アメリカ映画でたびたび取り上げられていますし、63年に人種平等をよびかけた名演説「アイ・ハブ・ア・ドリーム(わたしには夢がある)」が有名です。
さて、アフリカ系の少年少女たちの歌やダンスがすばらしい「ブラック・デー」が無くなりそうに…。これは番組を仕切っている女性ベルマ(ミシェル・ファイファー)の思わくです。やせてスタイルが良い白人美女のベルマは「黒人も中国人も、おデブも不美人もキライ」という「多様性をみとめない」キャラです。「ブラック・デー」の司会者メイベル(クイーン・ラティファ)は黒人差別へのデモ行進をよびかけます。このデモでメイベルが歌うゴスペル風の曲のシーンは感動的で胸にせまります。ラティファは本物の歌手ですから、キャストの中では最高の歌唱力を持っています。
トレーシーのデモ参加に、ママは反対するし、リックは尻込みします。それでもトレーシーは「正しいことを言って刑務所に入るならしかたない」と、黒人たちのデモに、たったひとりの白人として参加。プラカードをかかげ、ローソクの灯をともして、夕暮れの町を歩きます。そして事件が起こります…。しかし、彼女の勇気は、やがて周囲の人びとを…。

『ヘアスプレー』は、明るく楽しいハイスクールミュージカルですし、ジョン・トラボルタが特殊メイクで女装して歌って踊る面白い映画です。けれども、それだけじゃないんです。人びとが違いを超えて理解しあう。ふくよかでも、やせていてもOK。肌の色が白も黒も黄色も関係ない。そのような多様性を大切にする、という普遍的なテーマが、この作品を今も未来も名作にしていると思います。
実は日本人にとって、アメリカでの人種差別はひとごとではありません。第二次世界大戦の時にアメリカで暮らす日系人は収容所へ入れられました。その大変な生活は、映画『愛と哀しみの旅路』(1990年)にも描かれています。今でも、アジア人差別がまったくないというワケではありません…。

1988年に『ヘアスプレー』は、芝居の台本をもとに最初の映画化がありました。2002年にミュージカル舞台化。そして2007年の本作で2度目の映画化、と長い歴史を持っています。日本では2022年に渡辺直美さんがトレーシーを主演したミュージカルが好評でした。母親エドナ役は、山口祐一郎さん。「母親エドナ役は女装した男性が演じる」というのが最初の芝居からの<お約束>になっているようです。

『ヘアスプレー』(アメリカ映画 2007年 117分)
監督:アダム・シャンクマン
出演:ジョン・トラボルタ ミシェル・ファイファー ニッキー・ブロンスキー クリストファー・ウォーケン クィーン・ラティファ ザック・エフロン他
この作品のコラムは…
ヘアスプレー1 ビックでふくよかなママが大変身!多様性を描くミュージカル!
ヘアスプレー2 テーマは深い。人種問題と多様性
ヘアスプレー3 ふくよかな女性はチャーミング!
美容室・理容室へ主役が行く映画6選
『ロ-マの休日』
『ヘアスプレー』
『ワーキングガール』
『ニキータ』
『マグノリアの花たち』
『ベニスに死す』




