テレサ・テンと中華料理

歌とスターと

テレサ・テンは「アジアの歌姫」と言われています。
中国本土だけでなく、台湾、香港、シンガポールという中国語文化圏、
そして世界中で暮らす中国系やアジア系の人々に愛されています。

中国系の人にとって「国民的(民族的)な歌手」ですが、
「国民的歌手」の条件とはいったい何でしょうか?
その国の言葉で歌うことは、まず外せない条件でしよう。

そしてただ「人気がある」とか「歌がうまい」というだけでなく、
ある時は、励まし、奮いたたせてくれて
またある時は、やさしく慰め、癒してくれる…。
その国の人々の心にいつも寄り添ってくれる歌手だと思いますが…。

でも、大切なのは、それだけじゃないんです。

わたしが思うに「国民的歌手」の1番大切な条件は…

「歌声が、その国の料理の味がする」

…ことだと思います。

「母国語」を英語で「マザー・タング(母の舌)」といいますが
言葉を話すのも、料理を味わうのも、どちらも口や舌を使うせいか
各国の言葉の味わいは、不思議とその国の料理に似ています。

フランス語は、やわらかく洗練されたフランス料理の味がただようし
イタリア語は、つよい情熱がこめられたイタリア料理っぽいです…。の

それと同じように、「国民的歌手」の歌声は
その国の料理と同じ風味がする、と思ってます…。

たとえば、日本では永らく「美空ひばり」さんが
「国民的歌手」と言われてました。


彼女の歌声には、「お醤油」や「お味噌」の味わいがあります。
日本の大豆系発酵調味料のコクがあります。

また、白米のモチモチ感と日本酒のキレ味があります。
だから、昭和の日本人にとても愛されたのですね。

さて、テレサ・テンの話もどります。
「中国系の国民的歌手」である彼女の歌声は、
当然、中華料理の味がします。

でも、「中華料理」といっても
山海の珍味のフルコースや
豪華な満漢全席などではありません…。

こういうゴージャス系の中華料理ではなく…

テレサの絹糸のように光り輝く、透明な歌声は、
どこまでも繊細で、優しく、せつなく、甘く
聴く人の心に、そっと寄りそってくれます。

そう、それはまさに
「聴く薬膳料理」といった感じです。
「聴くおかゆ」「聴く漢方薬」です…。

テレサの歌声は薬膳料理…。
聴いていて、飽きないし、お腹も胸もスッキリします。
傷ついた心と体が、おだやかになぐさめられます。

または、湯気が立つマントウ(饅頭)…。
世界中で暮らす中国人の心を
あたたかい母の子守歌のように
やさしく軽やかに、いたわります。

五千年の歴史を持つ中華料理の本質は
豪華な「満漢全席」や「フルコース」とかではなく、
漢方に基づいて、心と身体をいやす「薬膳料理」
シンプルで温かい「マントウ(饅頭)」なのでしょう。

テレサの歌声は、聴く人を、ほっこりと浄(きよ)めてくれます…。
(歌とスターと#2「テレサ・テンと中華料理」)